2024年12月30日

【翔田寛さんの小説「二人の誘拐者」】 静岡県警本部、静岡中央署が現実の場所に。梅ケ島温泉手前で遺体発見

逆さまにした静岡県の地図を下敷きにしたブックカバーにぎょっとさせられる。本を開くと、静岡市内で10年前に発生した少女誘拐事件を報じる新聞記事がプロローグになっていて、さらにドキドキする。
この誘拐事件は迷宮入りしていたが、10年後に同じ静岡市内でさらわれた少女の白骨遺体が見つかる。誘拐犯に身の代金1千万円を奪われ、逃走も許していた静岡県警は、総力を挙げて捜査に当たる。さまざまな関係者に直当たりすると、当時は分からなかった事実が次々明らかになる。
腎臓に持病を抱え生体移植を望んでいた被害者とその両親、遺体が見つかった廃村の「子供の泣き声がする」という噂話、10年前の誘拐事件発生直後に事故死した若者…。作者は警察官の聞き込みの場面を飾り気のない筆致で積み重ね、捜査本部の課長とのやり取りを通じて複雑な人物の相関を分かりやすく解きほぐす。登場人物は相当な数に上るが、彼らの利害関係が分からなくならないのは、こうした工夫があってこそだろう。
全編にわたって具体的な静岡県内の描写が繰り広げられる。遺体の発見現場は静岡市の安倍川沿いを走る県道29号の集落「渡(ど)」から奥に入った「入島(にゅうじま)」の廃屋。「天竺村」という名称こそ架空のようだが、そこに至るまでの山並みの描き方は、静岡市民ならグッとくるはず。
静岡中央警察署は「静岡駅から北西に延びる御幸通りに面した」とあり、青葉通交番は「葵区七間町二丁目近くにある」と語られている。県警本部は県庁の隣としており、現実に即した配置だ。一方で「静岡総合中央病院」は石田街道沿いの「駿河区稲川」にあるとしていて、現実の世界ではそこに病院はない。
現存する施設と、そうでない施設が混在しているが、それはなぜか。読み終えると作者の「意図」や「配慮」がうっすらとうかがえる。
(は)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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