2025年2月28日
論説委員しずおか文化談話室

【SPACのプレス発表会】 ゴールデンウイークは「PLAY!WEEK」。社会に「しみ出す」演劇を

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は2月27日に行われた静岡県舞台芸術センター(SPAC)のオンラインプレス発表会を題材に。今年の「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」「ふじのくに野外芸術フェスタ」「ストレンジシード静岡2025」の概要が発表された。(文責=論説委員・橋爪充、写真=SPAC提供)

SPACは毎年ゴールデンウイークに開催する演劇祭の名称を「ふじのくに ⇄せかい演劇祭」から「SHIZUOKAせかい演劇祭」に改める。同時期に開催される「ふじのくに野外芸術フェスタ」「ストレンジシード静岡」と合わせ、4月26日から5月6日までを「PLAY!WEEK」と名付けた。

以下、プレス発表会での宮城聰芸術総監督の発言要旨をお届けする。

〈演劇祭の展望〉
日本と世界は共通した問題を抱えています。自分がもっと良くなっていく、もっとましな人間になっていく、何らかの意味で更新されていくといった期待を持てない人が増えています。また、排外的な雰囲気になっているとも思います。排外主義と少子化は、実は同じ現象の二つの側面なのかもしれません。

自分の陣地がちょっとずつ奪われていくんじゃないか、仕事が取られるんじゃないか、自分が不要品になっていくんじゃないかという恐怖。そういうもののせいで、自分が良くなっていくというイメージが持てなくなっているんじゃないでしょうか。

演劇は(そんな時代の)突破口になりうる気がします。「よく分かった」「面白かった」が20年後も残るとは限りません。20年後に残るのは、むしろ小骨が喉に残っているような「何だったんだろう」という感情でしょう。

そういう作品というのは、生身の肉体が目の前にあるからこそインパクトを持ちます。消費しきれないものが(鑑賞者の)体の中に残り、自分の栄養になってくれます。

こういう(演劇の)効能が世界中、特に日本の人に有効だとすると。普段は劇場にいらしていない方にも効能を広げることを考えなくてはいけません。(演劇が)街にしみ出していく、社会にしみ出していく。今回はそんなことを考えています。

〈作品へのコメント 「〈不可能〉の限りで」(作・演出/ティアゴ・ロドリゲス)〉
ティアゴはヨーロッパの演劇界の中心人物の1人。俳優としての来日実績はありますが、作品を日本で上演するのは初めてです。

この作品を一言で言えば、表現すること自体が不可能だと思える題材を扱っています。医療関係者が紛争地域において医療活動をする。きれい事ではない困難とぶつかる。それを演劇の力で表現してしまう。演劇が不可能と思われていた領域に挑んでいる作品です。

〈作品へのコメント 「ラクリマ、涙~オートクチュールの燦めき~」(作・演出/カロリーヌ・ギエラ・グェン)
(カロリーヌさんの作品には)たいていアマチュアの俳優が出ているんですね。繰り返し上演する舞台なのに、アマチュアの俳優が「演技ではないような演技」をする。ドキュメンタリーを見ているような気がしてきます。

戯曲にはドラマチックな感じが含まれます。波瀾万丈と言ってもいい。そういうストーリーをあたかもドキュメンタリーであるかのような演技によって紡いでいく。世界最先端の演劇ですね。

〈作品へのコメント 「ふじのくに野外芸術フェスタ 2025 「ラーマーヤナ物語」(原作/ヴァールミーキ、構成・演出/宮城聰)
最初に申し上げたように、自分が変わっていくという期待を多くの方が抱けなくなっています。そしてそれは集団にも期待できなくなっています。

自分自身の個人的な努力によって、自分のバリュー、つまり商品価値を上げることが当たり前になっています。自分以外の人、集団や組織が自分を育ててくれるんだという感覚をなかなか持てなくなっているんじゃないでしょうか。

そのことをもう一度信じられるようになりたいなと思って稽古をしています。世の中にしみ出していく、ということをこの作品でもやりたい。人々がいる中に俳優が入っていって、いきなり演劇が入っていく感じを実現したい。

客席と舞台を明瞭に組まず、広場に俳優が乗り込んできてそのまま芝居をやってしまう。そんな感じをやりたいなと思っています。

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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