2025年3月22日
論説委員しずおか文化談話室

​【「CCC Frontier Festival2025」開幕】 「辺境deダンスクリエイション」を見逃すな

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は3月21日に開幕した、静岡市葵区七間町エリア各所を会場とする現代アートとパフォーミングアーツの祭典「CCC Frontier Festival2025」を題材に。演目が集中開催された22日、各所に足を運んだ。
 
静岡市文化・クリエイティブ産業振興センター(CCC)が主催する新しいアートイベント。「まん中より、はしっこが面白い。」を掲げ、パフォーミングアーツの分野を中心にオルタナティブな表現を模索、追求しようという試みである。

市内各所の店舗と現代美術家とのコラボレーションも柱だが、22、23の両日は市内6カ所を会場に、みっちりパフォーミングアーツのプログラムが詰め込まれている。タイムテーブルとにらめっこしながら各所に足を運ぶのは、音楽フェスや演劇フェスと同様の楽しさだ。

猛烈な感動を覚えたのが、ドイツ在住のダンサー山口隼人さんが振付・演出を務めた「辺境deダンスクリエイション」だ。オーディションで選ばれた国内のダンサー6人と山口さんが、4カ月かけてオンラインで作品をつくり上げた。

実のところ、このコンセプトを聞いたときに「そんなことができるのか」と半信半疑だった。一方向からの視点しか持てないオンラインの映像。しかもダンサーと演出家は全員が違う場所にいる。複数による身体表現の制作は、演者の立ち位置や呼吸、タイミングが重要で、それは現場の共有が前提ではないのか。そう思っていた。

山口さんと6人が実際に顔を合わせたのは本番4日前だったという。しかし、40分にわたる演目は全てがスムーズだった。情熱的、技巧的、ユーモアと機知に富んでいてチャーミング。デュオやトリオがシームレスに連なり、ダンサー同士、互いが互いを見事に生かし合っていた。

流麗なピアノのフレーズを強調した幕開けから、暴力的な四つ打ち、愛のささやきが聞こえてきそうなメロウなメロディーに至る音楽の流れも素晴らしかった。ビョーク「Joga」に先導されたクライマックスの群舞には、率直に言って涙が出た。

終演後あいさつで、甲賀雅章コンセプトディレクターは「してやったり」の表情だった。「ここに招く」ではなく「ここでつくる」をやりたかった、というようなことを言っていたと思う。よく分かった。「辺境deダンスクリエイション」は、まさに「新しいやり方」を提示してみせた。こんな創作、可能なんだ。

スペインからやってきた映像アーティスト、カーラ・クラハトさん「Ghost in the machine」。あらかじめ設定された映像と自作の造形物をリアルタイムで撮影した映像を融合するパフォーマンスを披露した


「コーポリアルマイム」を標榜する河合隆汰さんの「去りて」は、ほか2人の演者とともに上演。身体表現による社会批評とも言うべき演目だった。適正な距離を探りながらも、結局のところ支え合っていくしかない都市を生きる人間のありさまを、高い身体能力で表現した


<DATA>
■CCC Frontier Festival2025
会場:静岡市葵区七間町、呉服町、人宿町、CCC、静岡市内各所
会期:3月30日(日)まで
※多くのパフォーミングアーツ作品は22日(土)、23日(日)に上演。時間は公式サイトのタイムテーブル参照。各店舗などでの現代アート作品の展示は30日まで。

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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