2025年3月30日
論説委員しずおか文化談話室

​【フェルケール博物館の企画展「黒猫奇譚 坂崎幸之助コレクション」】 デザイナーはなぜマッチラベルに黒い猫を起用するのか

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市清水区のフェルケール博物館で3月29日に開幕した企画展「黒猫奇譚 坂崎幸之助コレクション」を題材に。

3人組音楽グループ「THE ALFEE」の坂崎幸之助さんのコレクション展第2弾。2023年3月開幕の「和ガラスコレクション展」以来である。

今回は、骨董店や蚤の市で自ら求めた「黒猫」グッズをこれでもかと陳列。陶器のテーブルグッズからセルロイドのペン立て、筆箱、木製のおもちゃや日用品、布製の手ぬぐいや長襦袢、さらには絵はがき、ポチ袋といった紙製品まで、黒い猫を描いたありとあらゆる「もの」たちが並んでいる。

黒猫のモチーフとしての魅力を考えるのと同時に、黒猫に魅せられてこれだけのものを手元に収めた坂崎さんの一貫した「執着」にも思いをはせる。坂崎さんは国内屈指のスリーフィンガー奏法の使い手だが、楽器の技術を身に付ける過程でも、おそらくは並々ならぬ執着を発揮したのだと想像される。

展覧会の中で特に目を引くのは「マッチラベル」のコーナー。昭和期の代表的なノベルティーグッズの主役として、黒猫はかなり重宝されていたようだ。

ノベルティーグッズだから、店名がすり込まれている。「カフェークロネコ」「喫茶ト洋酒 クロネコ」「酒場キャバレー ギンネコ」-。店名を象徴するように、マッチ箱の表面で黒猫が跳梁する。「関東煮専門 黒猫」という店があって、目を凝らしてみると住所が「下田市」となっている。関東煮とは「おでん」のことだろうが、下田市にこの名称の店があるのはなぜだろう。いろいろと想像が膨らむ。

100以上のマッチ箱を見ると、デザイナーたちが黒猫というモチーフのどこに美を感じているのかがよく分かる。背中を盛り上げている猫が非常に多いのだ。黒い猫はそのままシルエットになる。白と黒を隔てる滑らかな曲線として、猫の背中が使われている。

飲食店が多いが、中には異業種もある。「目ぐすり セイキ水」「クロネコタクシー」「萬年筆用ライトインキ」が目についた。考えてみれば、国内の宅配便大手のアイコンも黒い猫だ。企業は美しい黒い猫に「確実さ」「堅実さ」のイメージも託しているのだろうか。

差し色に赤を使ったものが多いのも興味深い。ワイングラスを猫が右手で掲げる「カフェー黒猫 沼津」、赤い蝶ネクタイでお座りする「TEA&WINE kuroneko」、赤いよだれかけを提げた「切符債権商品券 神田つるや」-。力強く、カッコいい色の組み合わせと、やわらかい猫の輪郭線という相反する要素を同居させることで人の注意を引きつけているのだろう。

(は)

<DATA>
■フェルケール博物館「黒猫奇譚 坂崎幸之助コレクション」
住所:静岡市清水区港町2-8-11 
開館:午前9時半~午後5時(月曜休館、5月5日は開館、5月7日休館)
観覧料(当日):大人400円、中高生300円、小学生200円
会期:5月11 日(日)まで

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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