2025年7月2日
しずおか文化談話室

【LIVE ROXY SHIZUOKAの「渋さ知らズオーケストラ」ライブ】 ライブハウスで見る26人編成。今年の夏も静岡に「渋さ」がやってきた

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は7月1日に静岡市葵区のLIVE ROXY SHIZUOKAで開かれた「渋さ知らズオーケストラ」のライブを題材に。(写真・文=論説委員・橋爪充)

吉田町で開かれていた野外音楽フェスティバル「頂-ITADAKI-」のFINALから約1年。毎年「大トリ」を務めていた大所帯バンドが静岡に帰ってきた。2007年に「頂」が静岡市駿河区の日本平ホテル野外庭園で産声を上げてからずっと、このフェスの象徴的存在を担ってきた「渋さ知らズオーケストラ」である。

考えてみれば、屋内で彼らを目にするのは初めてだ。「頂」のほか、「FUJI ROCK FESTIVAL」「KAIKOO POPWAVE FESTIVAL」でも見たことがあるが、いずれも野外ステージだった。閉じられた空間で彼らの奔放な演奏はどう聴こえるのか。

この日のライブは26人編成。LIVE ROXY SHIZUOKAに入ると、客席フロアの前方エリアに演奏スペースが設けられている。人数が多すぎるのでステージには収まりきらないようだ。

「静岡に帰ってこられてうれしい」。ダンドリスト(指揮者)の不破大輔さんがミュージシャン、ダンサーらを一人一人呼び込む。冒頭から「Naadam」を30分以上演奏した。

5人の打楽器陣が打ち据える2拍子の中、アルトサックスの松原慎之介さんが5分間に及ぶ壮絶なアドリブソロを吹き上げる。次のフェーズはギタリスト加藤一平さんが胸をかきむしられるようなメランコリックなソロ。そして、打楽器とベースのKenKenさんが作り出す音の渦の中から立ち上る竜のごとき、登敬三さんのテナーサックスソロ。調和の中から不調和を、不調和の中から調和をつかみ出すのは、不破さんの全身を使った指揮である。

「静岡は、われわれにとってほぼホーム」というボーカリスト渡部真一さんのMCがあり、その後も混沌と秩序を行ったり来たりの楽曲が続く。ライブハウスという空間は、野外ステージに比べてブラスやパーカッションが際立つ彼らの「音塊」をまともに食らうことになる。音を浴びる、というより音をノンストップで投げつけられているような感覚だ。

はちまきに法被、赤ふんどし姿の渡部さんを筆頭に、いろんな人がいることに気付く。「気付く」としたが、渋さのステージにはそうした人たちが「いつもいる」というのが本当のところ。だが、狭いライブハウスで彼らを見ると、そのことが一層重要だと感じるようになる。

白髪の長髪を後頭部で結んでいるおじいさんのようなたたずまいの者。黒長髪でギターを奏でる男。白塗りのスキンヘッドでワンピース姿の舞踏家。白に近い金髪のウィッグで両手のバナナを振り回す女性2人。そもそも性別が判然としないダンサー。近所からフラッと来たような黒Tシャツに眼鏡のサックス奏者。いろんな人が、いろんなことをやっている。陳腐な言葉で言えば「多様性」をバンド全体で表現している。

まさしくこれは、「社会」そのものである。互いに縛り合うことはしないが、緩やかにつながっている。ダンドリスト不破さんの指揮が要所を制御する。まとまっていないようでまとまっている。

中盤のハイライトは南米チリの「抵抗のシンガー・ソングライター」ビクトル・ハラによる1971年の反戦歌「平和に生きる権利」だった。もの悲しくも力強いメインのメロディーの連呼とともに、パレスチナの旗が登場した。広げた旗の前でダンサーが十字架よろしく両手を水平に広げる。宗教の意味とは何か。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの非道な攻撃が続く中、砲撃と飢餓にさらされる人々について考えるひとときとなった。

2時間で恐らく10曲演奏した。最終盤は定番とも言える「本多工務店のテーマ」。会場全体が立ち上がって大合唱、お祭り騒ぎだ。続いての「ひこーき」は石川啄木の詩を使ったスローテンポの楽曲。パーカション関根真理さんのしっとりとした歌声が高ぶった気持ちを優しくクールダウンさせた。

バンドの面々はマーチング・インならぬ、マーチング・アウトで客席を通って退場。会場外から聞こえてくる軽快なブラスアンサンブルが「祭りの後の寂しさ」のような余韻を醸し出した。今年の夏も静岡で「渋さ」が見られた幸せをかみしめた。「頂」を愛した者たちは、あの芝生の会場にいっとき帰ったような気分に浸ったことだろう。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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