2026年2月7日

【第3回イナトリ・アート・フェス「稲取に光を灯す★」】東伊豆町、伊豆稲取駅周辺。港町の路地を歩き、作品にたどり着く
(文・写真/論説委員・橋爪充)
「イナトリ・アート・フェス」運営委員長の荒武優希さん(左)と特殊照明作家の市川平さん。頭上は市川さんの新作
アーツカウンシルしずおかと静岡県内4団体との空き家活動モデルプログラムの一環として、2024年に始まった「イナトリ・アート・フェス」。明治時代の稲取に近代医療をもたらした西山五郎(1864~1940年)の子孫の家をリノベーションした宿泊施設「湊庵路考茶」がメイン会場。徒歩圏内の他4会場にも作品を置く。
フェスを主催するのは「路考茶」などを運営する合同会社so-anの荒武優希代表社員らによる委員会。今回はさまざまな光源を用いて表現する特殊照明作家の市川平さんを、展示の中心に据えた。

「湊庵路考茶」の庭のサルスベリの木の横、街路灯の上でゆっくりと水銀灯が回っている。日中は「昼行灯」の様相だが、日が落ちると辺り一面が緑色の光に包まれる。市川さんが動画を見せてくれた。窓を通して日本間のふすまに映る光と影もまた、幻想的だそうである。

この会場には造形作家池田ひとみさん(掛川市)と現代美術家明石雄さん(同)がゴッホの「ローヌ川の星月夜」を毛糸で再現した「イナトリ港の星月夜」も見た。木の格子窓に掲げられた作品の影が、部屋の畳に影を落としている。夜を描いた作品が日だまりを強く印象づける。このパラドクスが面白い。
「湊庵路考茶」を出て、路地を歩き、他会場も巡る。荒武さんによると、「湊庵路考茶」を起点に徒歩10分ほどの地域に全て立地しているという。ほのかに潮の香りがする。ノリを天日干ししている家がある。猫が道を横切る。港町の風情を楽しみながら陽光の中、路地を歩く。このアートフェスは街並みも作品の一部なのか。

地図アプリを頼りにたどり着いた日和文庫は2025年春にオープンした私設図書館。築80年以上の古民家をリノベーションした空間は、人間だけでなく本と本棚も居心地が良さそうだと感じる。ここには銅版画家の古屋郁さんの小品が品良く飾られている。その数、30点ほどだろうか。
柳田国男や折口信夫らの本がずらりと並んだ棚から、モノクロで描かれた猫がこっちを見ている。民俗学と猫。奇妙な整合性に目を奪われた。

惣菜店「なぎ」には市川さんの小品が置かれている。樹脂製とおぼしき東京タワーの周りを白熱灯がゆっくりと回っている。ローストビーフやひじきの五目煮を食べながら、窓の外を行き交う車と作品を前後に重ねて鑑賞。いろいろと思考を巡らせる。
ぼんやりしているうちに、あっという間に時間が過ぎていた。気がつけば稲取に着いてから3時間ほど経過していた。時間感覚を狂わせるのもアートの力。そのことを実感させるアートフェスであった。
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■第3回イナトリ・アート・フェス「稲取に光を灯す★」
会場: 伊豆急行伊豆稲取駅周辺
会期:2月23日(日)までの土日祝日が中心。会場により時間・休館日が異なる。
※イベントやワークショップの日程は運営委員会のインスタグラムアカウント(https://www.instagram.com/inatori.artcenter/)参照。
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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