2026年4月3日

収蔵庫から偶然発見された70年前の名作に、ナイツ・土屋伸之、川﨑麻世の作品も!「東京猫美術展 in 静岡」が駿府博物館で4月25日開幕
伝説の版画家・大城貞夫の名作が時代を超えて光を浴びる
静岡市駿河区の駿府博物館で開幕する企画展「東京猫美術展 in 静岡」。そこに出品される逸品の展示に至るまでのエピソードを紹介します。
プロローグ:収蔵庫の奥に眠っていた、小さなぬくもり
「猫の可愛い作品、ないかなあ?」2026年の春。静岡市駿河区、駿府博物館の穏やかな空気の中で、ふとした呟きが落ちました。「東京猫美術展 in 静岡」の準備を重ねる、職員たちの一コマです。
その言葉に、鋭い聴覚を持つ一人の学芸員「ねこさん」が反応しました。彼女の胸には、ぴんとくるものがあったのでしょう。吸い込まれるように収蔵庫へと消えた彼女は、しばらくして、一つの作品を大切そうに抱えて戻ってきました。
それは、多くの人の目に触れる機会を待ち続けていた、静かな熱を帯びた一枚。約1200点の収蔵品の中にひっそりと、しかし確かな存在感を放って眠っていたその作品は、版画家・大城貞夫氏が1953年に制作した《猫》でした。
「よくこの作品、見つけたねえ」「前から、ずっと気になっていたんです」
2匹の猫が、互いの体温を分け合うように寄り添い、円を描く。その筆致には、郷土・浜松で培われた抒情性と、移住先の京都で磨かれた洗練された詩情が、版木の一彫り一彫りに宿っていました。
この再発見は、一人の芸術家が歩んだ創造の軌跡を、現代の私たちに再び問いかけるきっかけとなりました。
浜松の土に根ざして:創作版画の夜明け
大城貞夫氏(1904-1991)の芸術の種は、彼の生まれ故郷である浜松市に蒔かれました。戦前の浜松は、工業の喧騒とともに、豊かな市民文化が花開いた街でした。この活気ある土壌で、大城氏は「版画」という表現手段を選び取りました。大城氏は活動初期、静岡県版画協会の前身となる「童土社」に所属しましたが、そこには、自ら描き、自ら刻み、自ら刷るという「創作版画運動」の精神が脈打っていました。
版画を単なる複製技術ではなく、個人の魂を映し出すメディアとして捉えていました。郷土の美を再発見し、市民の手へと届ける。その啓蒙的な活動は、大城氏が後に日本版画協会へと羽ばたき、活動の場を全国へと広げる礎となりました。
東京オリンピックの招致に尽力した田畑政治との関係
以下は「国立新美術館 大城貞夫版画展&浜松市美術館名品コレクション展ーわがふるさとー(サイト)」からの引用です。東京オリンピックの招致に尽力した田畑政治氏が関わった、浜松での日米交歓水上大会(1950年)では、記念品の版画を制作してアメリカの選手団に贈っています。
その時の『夕映へ』『早春』『柿の実が熟すころ』の3点は、富士山や浜名湖の風景を抒情豊かに描いています。
戦後は京都へ移住し、染織図案家として活躍しながら京都版画協会の立ち上げに参加し、《聖護院八ッ橋の家》(1952年)など古都の美しい風景を制作しました。
生命への慈しみ:1953年の《猫》
今回、駿府博物館の収蔵庫から再び光を当てられた1953年の《猫》は、大城氏が京都で到達した「純粋なる素朴」を象徴する一枚です。風景を見つめていた彼の眼差しは、やがて身近な生命のぬくもりへと向けられました。寄り添い、眠る二匹の猫。その体の曲線は、一つの完璧な円として描き直されています。
戦後の激動を越え、ようやく手にした穏やかな平穏を、彼は猫たちの寝姿に託したのかもしれません。木版特有の力強い輪郭線と、にじみを生かした温かな摺りの表情が、観る者の心に柔らかな「ゆらぎ」をもたらします。
2026年、猫たちが繋ぐ未来
この《猫》は、2026年4月25日から6月14日まで駿府博物館で開催される「東京猫美術展 in 静岡」で、現代を生きる猫たちと巡り合います。会場には、土屋伸之さん(ナイツ)や川﨑麻世さんといった、現代の多才な表現者たちが描く猫たちが集います。半世紀以上の時を超えて並ぶ大城の作品は、時代が変わっても変わることのない「生命への慈しみ」を、私たちに語りかけてくれるでしょう。
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■東京猫美術展 in 静岡
会場:静岡市駿河区登呂3-1-1 静岡新聞放送会館別館2階
開館時間:10:00~17:00
会期:2026年4月25日(土)~6月14日(日)
休館日:月曜日、5月7日(木)(祝日、振替休日の場合は開館し、翌日休館)
入館料:一般800円、高校生400円
駐車場:駿府博物館北側駐車場(障がい者用を含む5台)
【参考文献】近代日本版画家名覧(稿)1900-1945ー版画堂(ネットで公開)
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