
【一問一答インタビュー】「再審というのは冤罪救済の最後の砦」 袴田巖さん釈放の裁判長・村山浩昭氏が語る再審法改正の正義

■袴田巖さんの再審開始と釈放認めた元静岡地裁・裁判長
袴田巖さん(90)の問題をきっかけに始まった再審法の見直しをめぐって5月13日、検察官による抗告を原則禁止とする改正案がまとまり、15日に国会に提出された。
自民党内では一定の成果が得られたとの声が聞かれる一方で、本当に袴田さんのような冤罪被害を生まないための法案になっているのか?
第2次再審請求審で2014年、静岡地方裁判所裁判長として、袴田さんの再審開始と釈放を認めた村山浩昭さん。
退官後、再審制度の見直しを検討する法制審議会の部会の委員に選ばれたが、要綱案の採決には反対票を投じ、悔しさをにじませる場面もあった。
同日に村山さんに行ったインタビューを一問一答にまとめた。
■「自民議員が本当に体を張って闘ってくれた」

ー法務省としては3回目の修正となる改正案がまとまったことは
私たちがいくら法制審で議論しても、全く微動だにしなかったことが、自民党の中で色々な議論を経て、いくつかのことが動いたんですね。これは容易ならざることだと思うんです。
再審議連に加盟する自民党の議員の方が「やはりこれを放置しちゃいけない」という使命感で、本当に闘ってくれたと思う。言い方が妥当かは分かりませんが、本当に体を張って闘ってくれたんじゃないかと私は思います。
■「今でも抗告の全面禁止にこだわっている」

ー検察官による抗告を「付則」に盛り込んだ前回案が修正され、法律本体の「本則」に盛り込んだ案となったことについては
付則に比べたら本則に当然入れるべきです。付則でも、確かに法的効力は一緒だという人もいますが、不服申し立て(抗告)を禁止しましょうという、極めて実態的かつ重要な問題を付則で規定するというのは、これはやはり条文の作り方として、非常におかしいと思います。
ー改正案では抗告の余地を残し、全面禁止になっていないことについては
私は今でも全面禁止にはこだわっています。抗告できるということになると、そこが抜け道になってしまう可能性があるので。
(抗告)できないんだったらできないというふうにしておけば、開始決定の後は再審公判に移行しますので、その形の方が良いと、今でも思っていますし、今後もそういう方向で国会で議論されることを望んでいます。
■「すぐ再審公判を開いていたら9年もかからない」

ー抗告の全面禁止について、袴田巖さんの事件を例に取ると
(2014年の)再審開始決定からの9年間はなくて済んだはずです。抗告があったことで、9年やった上で、また1年(再審公判を)やって、10年かかっているわけです。すぐに再審公判を開いていたら、絶対に9年もかからないと思うんです。
今の裁判員裁判を見ても、9年もかかっている事件なんて無いんですから。再審請求審で問題点が洗い出されていて、証拠調べもやった上での再審開始決定ですからね。
そうすると、再審公判での論点というのも限られてきて、きちんと審理をすれば、9年なんてかかりません。
■「これまでに比べると大きな進歩」

ー証拠開示については
抗告に比べると、自民党の中でもそこまで厚い議論になってはいないと思います。不服申し立て(抗告)の方が圧倒的に厚い議論になっていたと思います。
今まで(再審では)ルールがなかったので、ルールを作りましょうと。一定の要件を満たしたら、裁判所が提出命令を出さなければいけないという義務を課した。これまでに比べると大幅な進歩です。
■「下手をすると改悪になるおそれ」

ー「再審請求の理由と関連する証拠が対象」としていて、冤罪被害者やその関係者が求めてきた全面開示とはなっていないが
限定されるということになると、下手をすると改悪になるおそれがあります。では、どういう場合に提出命令を出せるのかというのを突き詰めていくと、かなり窮屈になってしまう。
逆に、すべて開示するというのは、非常に魅力的なんですが、現在通常審でもそうなっていない。通常審でもやっていないことをなぜ、再審でやらなければいけないのかという声も多くあります。
■今回の改正案に当てはめると予想されることは

ー袴田巖さんの再審の扉を開いたのは、事件から40年以上が経ってから証拠開示された「5点の衣類」のカラー写真やネガと言われている。今回の改正案に当てはめると、どんなことが予想される

例えば、第一次請求審では、(5点の衣類の)ズボンが(袴田さんは)履けなかったんですね。ズボンが縮んだんじゃないか?とか、袴田さんが太ったんじゃないか?とかというふうに(弁護団は)問題にしていたわけですが、じゃあ、5点の衣類のカラー写真は出るんでしょうか?というと、新証拠との結びつきを考えると、出てこないんですよね。
「5点の衣類」に議論は及んでも、生地が伸び縮みするかどうかというのと、発見当時の衣類の色というのは、別問題ですから。そうなると、証拠から(カラー写真やネガは)はねられてしまう。
■「再審法改正」は誰を救う?
ー今後、国会でも議論される見通しだが、再審法の改正は誰を救うことになるのか
まず今、冤罪で苦しんでいる方に大きな救いの手を差し伸べることになることは間違いないと思います。
あとは、将来的に冤罪にはまってしまった人、意図せずに冤罪被害を受けてしまった人が、早期にその被害から抜け出せる、脱却する、そういう人たちに手を差し伸べる手段になるはずですし、また、そうしなければいけないと思います。
多くの市民の方には「今はそうじゃないかもしれないけれど、あなたが、あなたのお子さんが、あなたのお友達が、冤罪に巻き込まれるかもしれない」といつもお話をしています。「だから、今、法律を改正する必要がある」と。
■今、再審法改正ができないとどうなるか?
ー今、再審法を改正できないと、どうなるのか
袴田さんの事件は、死刑判決からの無罪ですよ。日本では4大死刑再審事件などもあったのに、4人も(死刑判決から)無罪だったのに。無実なのに殺されそうになったんです。それでも法律は変わらなかった。
そこで今回、袴田さんです。ここで変わらなかったら、いつ変わるんだ?という。
法曹がこれまで冤罪を生み出してきてしまったということを反省して、やるべきだと思うんです。反省の上で、どうやったら無実の人を救済できるのか?確かに割合的には、再審請求事件というのは棄却になる率が圧倒的に高いが、そういう中に真実の叫びがあると。そう思って、取り組まなければいけないはずなんです。
最近私がいつも言っているのは、「再審というのは冤罪救済の最後の砦」だと。誤った裁判によって、いわれなき処罰を受けている、そういう人を救済するというのは、刑事司法の中では最大の正義なんです。一番やってはいけないことを正すわけですから。
最大の正義を実現するためにどうしたら良いのかということを本当にみんなで考えなければいけないし、その正義が実現されやすいような法制度を作らなければいけない。
■裁判官視点:「自分の出した判決がひっくり返される可能性」

裁判官の視点から見ると、自身の出した判決がひっくり返される可能性が高くなるという捉え方もあるのではー
そういった権威を守ることにどれだけの意味があるのかということです。だって、無実なのに罰を受けている、その原因が自分の判決だとすると、これはやはり裁判官として、本当に堪らないことですよ。
自分がそれを見抜けなかった、ということは非常に辛いし、悲しい思いをすると思います。だけど、本当は無実なのに、自分の出した判決のために長期拘束が続いたり、ましてや死刑の恐怖に怯えているなんていうことはあってはいけないし、もし違うんだったら、早期に正してもらいたい。
新証拠によって(判決が)覆るということになると、(自分は)見ていなかった証拠です。自分がその証拠を見ていたら、「有罪にしなかったよ」という事件も当然あると思います。
裁判官としても、再審制度があることによって救われる事がある。間違ってはいけないけれども、それでもやっぱり間違って有罪にしてしまうことは、当然あり得るわけですから、自分が関わった裁判がひっくり返されることは、職務上、ある程度覚悟せざるを得ないことなんです。

村山浩昭(むらやま・ひろあき)
東京大法学部卒、1983年に判事補任官。2012年から静岡地方裁判所の部総括判事。2014年3月、同地裁裁判長として袴田巌さんの再審開始と釈放を決定した。盛岡地裁・家裁所長、名古屋と大阪両高裁の部総括判事を務め、2021年に定年退官。2022年に弁護士登録。
「あしたを“ちょっと”幸せに ヒントはきょうのニュースから」をコンセプトに、静岡県内でその日起きた出来事を詳しく、わかりやすく、そして、丁寧にお伝えするニュース番組です。月〜金18:15OA
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