2024年12月29日

【ベンジャミン・リー監督「画家と泥棒」】 描く人、描かれる人。境遇の違う2人の間に生まれる奇妙な友情

チェコ出身の画家バルボラ・キシルコワは、ノルウェー・オスロで個展を開くが、ギャラリーに侵入した男2人に作品2点を盗まれる。バルボラはスーパーリアリズム絵画を得意とし、「クロエとエマ」「白鳥の歌」と題した2作品はどちらも4×6フィートの大作。犯人たちは、木枠に打ち付けた200本以上のくぎを丁寧に抜いた上で絵を持ち去った。
映画はこうした盗難事件の一部始終を、作家のプライベート映像と防犯カメラの映像で説明する。犯人は捕まり、法の裁きを受ける。だが、盗まれた作品は出てこない。ここで「被害者」であるバルボラは犯人の1人カール・ベルティルに奇妙な提案をする。「私の作品のモデルになってほしい」
ベンジャミン・リー監督は3年半にわたって、この2人の交流を記録し続けた。タトゥーだらけのベルティルと、アトリエの家賃を滞納するほど困窮しているバルボラの間に奇妙な友情が生まれる。ベルティルとパートナー女性の関係、DVを受けていたバルボラの過去と現在のパートナーへの信頼が徐々に明らかになっていく。
全編を通じてあらわになるのは、アーティストが「何に引かれるか」という言葉にしにくい問題だ。バルボラは裁判所で出会ったベルティルについて、「純粋無垢な魂がそこにあった」と説明している。ベルティルの容姿が絵画映えすることもあっただろうが、自分の身に降りかかった「作品を盗まれた」という状況を「アート」に転換するというアイデアに夢中になったという側面もあっただろう。ベルティルの恵まれていたとは言いがたい半生もアーティストとしてのインスピレーションを刺激したはずだ。
バルボラはどんな困難に直面してもパレットで色を作り、大きな画面に絵筆を走らせる。自らを「ジャンキー」と形容する。アートを制作することをやめられない「ジャンキー」だ。そのことを巡ってパートナーと口論にもなる。でもやめられない。パートナーも最終的にはそれを理解する。
バルボラは、生い立ちやドラッグの影響で「自分の意志で物事を制御できない」ベルティルに、自分の「影」を見いだしたのではないだろうか。映画の中に流れる3年半という時間を、劇場の観客は約100分で確認する。ギュッと圧縮された映像記録から、バルボラとベルティルが自覚していない「意識の底流」が浮かび上がるのが、この作品の最大の美点だろう。
(は)
<DATA>※県内の上映館。12月29日時点
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区、2025年1月9日まで)
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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