2025年8月10日

【ベルナール・ビュフェ美術館の「アーティストの目は何をみていたか―ビュフェ、エコール・ド・パリ、そして現代アートへ」】ビュフェのトイメンに李禹煥、筆のストロークが共鳴しているかのようだ

ベルナール・ビュフェの作品と、同時代の作家、影響を受けた作家らの作品を並べて鑑賞する、ありそうでこれまでなかった気がするコレクション展。冒頭の案内文で「新しいみえ方を探る」とあるが、確かにそれが見えた。
冒頭からいきなりモーリス・ド・ヴラマンクとの〝共演〟である。個別に作品を見てうっすらと感じていた、2人の価値観の近似性が解き明かされたような気持ちになった。右にビュフェ「村のカフェ(1955年)、左にヴラマンク「辻風景」(1932年)。どんよりとした曇り空、街路沿いに並ぶ建物。目の前にある景色への視線の向け方がそっくりだ。「何をもってカッコいいとするか」という基準が共通しているように思える。
これは知らなかったのだけれど、ビュフェは他者の作品としては唯一、ヴラマンクの絵画を自宅に飾っていたそうだ。それ以外は全て自身の作品だったそうで。個人的にも作風の連続性を感じ取っていたのだろう。もしくは意識的に連なろうとしていたか。

1923年設立の「サロン・デ・テュイルリー」の出品作家とのつながりも楽しい。モーリス・ユトリロ「モンマルトル、アベス通りのサン=ジャン教会」(1933年頃)とビュフェ「兎のエコルシェ」(1951年)は、1951年の同じ展覧会に出ていた。70年以上の時を経て、日本の長泉町で再び同じ空間を共有している。モチーフも色彩もまるで異なる2枚だが、それぞれの絵画がたどった「旅」に思いをはせると、胸中に熱いものがこみ上げる。70年前、同じ会場で2人は互いの作品を批評し合ったに違いない。
モイーズ・キスリングの作品との見比べでは、ビュフェが少女の顔の造形に学びを得たように感じられる。藤田嗣治の作品からはダイレクトに「乳白色」を受け取ったようだ。ビュフェの「立つ女」(1965年)からははっきりそれが読み取れる。
現代アートとビュフェの接続点を探る試みもいい。丸山直文の作品の横に置かれたビュフェ作品は、記憶にある色が少しだけ変調したように感じられた。李禹煥「From Point」(1977年)のトイメンにビュフェ「燈台」(1991年)という組み合わせも秀逸。筆のストロークが共鳴し合っているかのようだ。
(は)
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■ベルナール・ビュフェ美術館「アーティストの目は何をみていたか―ビュフェ、エコール・ド・パリ、そして現代アートへ」
住所:長泉町東野クレマチスの丘515-57
開館:午前10時~午後5時(3~10月)、午前10時~午後4時半(11月~2月)
休館日:毎週水、木曜 (祝日は開館し、金曜休館)
観覧料(当日):一般1500円、高校・大学生750円、中学生以下無料
会期:前期は11月25日(火)まで。後期は11月28日(金)から2026年03月24日(火)まで。
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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