2026年2月16日

【「大井川芸術創生譚~UNMANNED 無人駅の芸術祭の先へ~」開幕】島田市川根町抜里地区を中心に作品が点在。かつてない「スケール感」
(写真・文=論説委員・橋爪充)
西田秀己『境界のあそび場Ⅱ/ちゃばらのカーテン』
初開催から8年。「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」は地域密着型アートフェスティバルの一つの解として、野放図にエリアを広げるのでなく、まずは一定地域の時間軸を重視する方針を固めたようだ。地域の歴史、そこに生きる者の記憶をアートという手段を通じて次世代につなげる。その上で静岡県を縦(南北)に貫く「大井川流域」という文化圏を総覧する機会をうかがう。恐らくは1年2年では達成できないだろうことを主催者は分かっているはずだ。それでもその高みを目指そうとしている。要するに志が高いのだ。
力五山『表参道ー願いをつなぐー』。過去の芸術祭で制作された作品を再構成する<大井川コレクション>の一環で展示
外部、内部の環境が変化したにも関わらず、今回の芸術祭は恐らく質量共に過去最高である。マップを開くと大井川鉄道抜里駅周辺に設置された作品や、展示会場が通し番号で示されていて、それは22カ所に及ぶ。丁寧に見ていくと、鑑賞時間として設定されている午前10時から午後4時では踏破できないだろう。かつてない「スケール感」は、今回展の特徴の一つと言える。
開幕式に合わせて14日に2時間ほど集落を巡った。だから、全ての作品を見られてはいない。昨年巡った寺山(通称「ぼいんぼいん山」)の作品群も、今回は時間の都合で足を運ぶことがかなわなかった。その上であえて見どころを三つ挙げる。
一つは「くにおさんのガレージ」に掲げられた米澤くにおさんによるおびただしい数の絵画だ。茶農家の木造の作業小屋を展示会場にしている。農機具と共に昭和40年代から令和にかけての作品40枚超が並ぶ。キャンバスに、おそらくアクリル絵の具で描いたものだろう。新しい命が生まれ、育ち、また新しい命が生まれ。約60年の家族の変遷がここにある。
米澤くにお『家族を見つめて』。<大井川コレクション>の一環
1948年抜里生まれの米澤さんは、学生時代から独学で描き続けているという。いわゆる「プロ」の画家ではないが、いや、プロの画家ではないからこそ、自分の身近な存在への作為のない慈しみが伝わってくる。この作品群に費やした途方もない時間に思いをはせると、アートの本質の一端が見えてくる。
二つ目は2024年制作の小山真徳さん『てのひら』だ。抜里駅を出発した大井川鐵道大井川本線の乗客に向けた情愛のサインのような、大きな右手の像。竹製の「手」は昨年、一昨年見た時よりも色が落ちている。さらに言えば、上空にピンと伸びていた薬指や小指が少しかがんでいるような気がする。
小山真徳『てのひら』
自然物を素材にした屋外作品としては当たり前の変化だろう。これを「劣化」と捉えるのはつまらない。個人的には、かつての姿にはなかった「手のひらのくぼみ」を感じ取った。永久不滅ではなく、茶畑にそびえる「朽ちていく」ことを運命づけられた作品。これもまた、この芸術祭の提案する多様な視点の一つだろう。
三つ目は浜松市北部に拠点を置く「天地耕作」の村上誠さん、渡さん兄弟による新作『産土』。神社があった場所を掘り、出てきた石を積んで垣のように穴を囲み、樹木の枝や製材した板で構造物をこしらえている。1カ所に常緑樹の枝で作ったアーチがある。石棺への入り口のように見える。生と死の香りが両方漂う。
村上誠・村上渡『産土』
作品は昨年5月から制作が始まり、来年の芸術祭までに完成に至るという。制作者によると、今見えている構造物の上に「何か」が加わるらしい。天地耕作の野外作品は一定期間の「展示」を経て、土に返すのが通例と聞いている。今回の試みは、彼らの長いキャリアの中でも異例の「長期展示」となるのではないか。
「天地耕作」が2024年に県立美術館の裏山で制作した作品の写真も展示
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■「大井川芸術創生譚~UNMANNED 無人駅の芸術祭の先へ~」
会場:島田市川根町抜里エリアほか
会期:3月15日(日)まで。インフォメーションセンターは月・火・水曜休 ※2月23日は開所
屋内作品の鑑賞時間:午前10時~午後4時
鑑賞料:無料
問い合わせ:NPO法人クロスメディアしまだ(電話0547-39-3666、E-mail:info.unmanned@gmail.com)
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。










