2026年3月2日
しずおか文化談話室

​【「大井川芸術創生譚」の特別講演「震災復興とアート」】奥能登国際芸術祭と石川・珠洲の現況は。人と人、人と作品をつなぐ「縁」を実感

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は島田市川根町抜里地区を中心とした芸術祭「大井川芸術創生譚」で3月1日に行われた特別講演「震災復興とアート」を題材に。「大井川芸術創生譚」の会期は3月15日まで。
(文・写真/論説委員・橋爪充)

2月14日に開幕した「大井川芸術創生譚」は会期後半に入った。折り返し地点とも言える3月1日、芸術祭のインフォメーションセンターでもある「ヌクリハウス」でのトークイベントに参加した。同会場は芸術祭主催のNPO法人クロスメディアしまだが管理するゲストハウス兼アトリエである。

「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(2000~)、「瀬戸内国際芸術祭」(2010~)など多くの芸術祭を手がけているアートフロントギャラリー(東京・渋谷)の関口正洋さんがゲストスピーカー。2024年1月の地震、9月の豪雨で大きな被害を受けた石川県珠洲市が舞台の「奥能登国際芸術祭」(2017~)の過去、現在、未来についての話が聞けた。主催者の2人と筆者が加わったクロストークでは、芸術祭の意義、災害からの復旧・復興に果たす役割が話題となった。

筆者は2023年秋に芸術祭に足を運び、2025年秋には取材という形で珠洲市を再訪した。2024年元日の地震の際は、心を揺さぶられた作品の数々に加え、現地でお目にかかった方々の安否が気になり、心がざわつく日々だった。

トークでは芸術祭が生み出す「縁」について話が及んだ。企画者、アーティスト、鑑賞者の3者が紡ぐ「縁」とともに、作品とその前に立つ鑑賞者の関係性が生む「縁」もある。自分の体験から、そんな主張をさせてもらった。

二つの縁のうち、特に後者は言語化しにくい。かつて「ビビビッときた」という表現が流行したが、まさにそれに近い。見た瞬間に体から心臓を持って行かれるような感覚。個人的には奥能登国際芸術祭で言うなら、塩田千春さん「時を運ぶ船」(2017年)がそれにあたる。

2025年10月27日付静岡新聞記事「石川・珠洲 奥能登国際芸術祭 再開へ一歩ずつ」から

発災直後は作品が収められている旧保育所の被災状況、また2024年の芸術祭で会った地元の老人クラブの皆さんの安否が気になって気になって仕方がなかった。2025年に再訪した際に、当時の代表だった南昭義さんの元気な姿に出会え、心からうれしかった。

集落は1週間から10日ほど孤立状態だったという。インフラの復旧も遅れた。南さんは「山からの湧き水を毎日くんでいた」と話してくれた。かつての教室に展示された「時を運ぶ船」は微動だにせず、そこにあった。グッときた。作品と自分が強く結ばれていると実感した。

トークイベントで関口さんは、芸術祭で生まれた縁を復興の力とする「奥能登珠洲ヤッサープロジェクト」の取り組みを紹介してくれた。専門機関やボランティアとの連携で作品や文化財を保全し、珠洲市の被災状況や復興の過程を記録・発信し、復興ツアーやボランティアのコーディネートを行っているという。

半年間で2回も大災害に襲われた珠洲に対して、自分が特別な感情を抱いていることに改めて気付かされた。本来は縁もゆかりもない地域である。芸術祭、そして作品が筆者と珠洲の「縁」を創出した。無から有が生まれた。

アートの力はすさまじい。芸術祭の名称、「芸術創生譚」の含意に気付かされた。芸術「を」創り、生むものだけが大切なのではない。芸術「が」創り、生むものこそ芸術祭の価値なのだろう。

大井川芸術創生譚に展示されたイ・イス「Flying Ddobok」(2024年)


<DATA>
■「大井川芸術創生譚~UNMANNED 無人駅の芸術祭の先へ~」
会場:島田市川根町抜里エリアほか
会期:3月15日(日)まで。インフォメーションセンターは月・火・水曜休
屋内作品の鑑賞時間:午前10時~午後4時
鑑賞料:無料
問い合わせ:NPO法人クロスメディアしまだ(0547-39-3666、info.unmanned@gmail.com)

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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