2026年5月21日
しずおか文化談話室

【フェルケール博物館の「松にきく 澤田祐一展」】松を描いて40年以上。モチーフに向き合うアーティストの、視線の変遷が伝わってくる

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は4月1日から静岡市清水区のフェルケール博物館で開かれている企画展「松にきく 澤田祐一展」を題材に。5月24日午後1時半から同館で、澤田祐一さんの技法説明とギャラリートークがある。
(文と写真=論説委員・橋爪充)

澤田さんといえば松である。2015年のモンミュゼ沼津(沼津市)、2020年の静岡市三保松原文化創造センター「みほしるべ」(同市清水区)での個展をはじめ、何度となく言葉を交わす機会があったが、松への興味関心、強い言葉を使うなら「執着」が衰えないことに、その都度驚かされたものだ。

アーティストにとって、こうしたモチーフに出合えることは「幸運」といって差し支えない。澤田さんはかれこれ40年以上も松と対話を続け、インスピレーションを得続け、作品化し続けている。これだけの持続力は「表現者の執着」だけではなしえない。もしかすると、松の側からも、澤田祐一というアーティストを必要とする吸引力のようなものが出ているのではないか。

勤務先が松林の近隣だったことを「運命」と呼ぶのは簡単だが、それだけではないような気がする。澤田さんと松の関係を思い浮かべると、「互いに引き合う何か」が感じられる。アーティスト側の創意工夫だけでなく、「松からの要請」も確かにあるように思う。

ほぼ時系列で並んだ今回の作品展を見ると、そうした考えがより強化される。約40点のほとんどがコラグラフだが、松をモチーフにし始めた1985年ごろは松ぼっくりの造形の妙に強い関心があることがうかがえる。

1990年代はだんだん「形」が崩れていく。松ぼっくりの鱗片の「連続性」「整然」を抽象化したような作品もある。2000年前後からは、再び見てそれと分かる形の松ぼっくりが現れる。何やら能動的な動きを感じる時期を経て、空白にぽつんと置くようになる。松ぼっくりそれ自体に、「意志」を託しているように見える。

2011年の東日本大震災を経て、楕円が登場する。陸前高田市の「奇跡の一本松」に感動した澤田さんは、松ぼっくりに「空間を超えて何かを伝え合う主体」というイメージを重ねたようだ。松ぼっくりの間に置かれた楕円は、空間的、時間的な距離の象徴だろうか。

近作では、その楕円が鎖状に連結して別の形を作り始めている。高度な情報化社会の中で、世界の各地、各国が結びつく様を想像する。2025年の作品は無数の楕円がさまざまな色を得て、奔流をなしている。その中にポツポツと見え隠れする松ぼっくり。まさに、時代の流れに乗ることしかできないでいる私たちの姿そのものではないか。

会場の作品のほとんどは松を描いている。ただ、澤田さんの視線はどんどん変化している。松というシンプルなモチーフの「どこ」にアーティストの関心があるのか。変遷が分かりやすく提示されている。

<DATA>
■フェルケール博物館「松にきく 澤田祐一展」 
住所:静岡市清水区港町2-8-11
開館:午前9時半~午後4時半(月曜休館)
入館料:大人400円、中高生300円、小学生200円
会期:6月28日(日)まで

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

おでかけ
エンタメ

あなたにおすすめの記事

  • 【フェルケール博物館 の法月健一展 「変遷」】 針金が伝える豊かな表情

    【フェルケール博物館 の法月健一展 「変遷」】 針金が伝える豊かな表情

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #おでかけ
    #エンタメ
    #静岡市
  • 【フェルケール博物館の企画展「掛井五郎の仕事」】 彫刻だけじゃない。油彩画、銅版画、絵巻物…。掛井五郎さんの多面性を堪能

    【フェルケール博物館の企画展「掛井五郎の仕事」】 彫刻だけじゃない。油彩画、銅版画、絵巻物…。掛井五郎さんの多面性を堪能

    しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #静岡市
  • 【フェルケール博物館の「クロダユキ展」】 赤は鮮烈なだけじゃない

    【フェルケール博物館の「クロダユキ展」】 赤は鮮烈なだけじゃない

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #エンタメ
    #静岡市
    #藤枝市
  • 【静岡カントリー浜岡コース&ホテルの「乾久子展 ~n次元の世界~」】「くじびきドローイング」で知られるアーティストの、踏み固めた足跡を見た。動的な作用が伝わってくる

    【静岡カントリー浜岡コース&ホテルの「乾久子展 ~n次元の世界~」】「くじびきドローイング」で知られるアーティストの、踏み固めた足跡を見た。動的な作用が伝わってくる

    しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #浜松市
    #御前崎市
  • ​【フェルケール博物館の企画展「黒猫奇譚 坂崎幸之助コレクション」】 デザイナーはなぜマッチラベルに黒い猫を起用するのか

    ​【フェルケール博物館の企画展「黒猫奇譚 坂崎幸之助コレクション」】 デザイナーはなぜマッチラベルに黒い猫を起用するのか

    しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #静岡市
    #静岡市清水区
  • 【フェルケール博物館の「銘仙展 夏」】青のバリエーションが楽しい

    【フェルケール博物館の「銘仙展 夏」】青のバリエーションが楽しい

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #エンタメ
    #おでかけ
    #静岡市
  • 【駿府博物館の「東京猫美術展 in 静岡」】ネコという魅力あるモチーフを乗り越える「作家性」。ナガタロッソさん、馬艶さんに注目

    【駿府博物館の「東京猫美術展 in 静岡」】ネコという魅力あるモチーフを乗り越える「作家性」。ナガタロッソさん、馬艶さんに注目

    しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #静岡市
    #静岡市駿河区
  • 大人になった“6つ子たち”を描いた21世紀のギャグアニメ「おそ松さん」!7月から第4期がスタート予定!

    大人になった“6つ子たち”を描いた21世紀のギャグアニメ「おそ松さん」!7月から第4期がスタート予定!

    SBSラジオ トロアニ

    #エンタメ
    #アニメ
  • 【フェルケール博物館の「水の絵 『幻触』と『幻触』以降の鈴木慶則」展】精緻な「鮭」を見よ

    【フェルケール博物館の「水の絵 『幻触』と『幻触』以降の鈴木慶則」展】精緻な「鮭」を見よ

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #エンタメ
    #おでかけ
    #静岡市
  • 【フェルケール博物館の「開港展」】 美のセンスとクラフトマンシップが調和

    【フェルケール博物館の「開港展」】 美のセンスとクラフトマンシップが調和

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #エンタメ
    #静岡市