2025年12月11日
しずおか文化談話室

【東京ステーションギャラリーの「小林徳三郎」展】沼津市江浦の風景が広がる。山口源とはニアミスか

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は東京都千代田区の東京ステーションギャラリー で11月22日に開幕した「小林徳三郎」展を題材に。

兵庫県出身の洋画家小林徳三郎(1884~1949年)の画業を総覧する回顧展。東京美術学校を卒業後、萬鉄五郎、木村荘八、岸田劉生らとともに美術団体「フュウザン会」で活動した。今回展は学生時代のスケッチから、最晩年の風景画まで、作品と資料計約300点を展示している。

静岡にも縁がある美術家だ。今回展では、2階展示室の第2室に入ると、沼津市南部の海岸線の風景が広がる。旅館だろうか、2階の窓辺から海を見つめる女性を描いた「江の浦二」(1942年)。視線の先には小さな漁港と半島がある。「江の浦」(1940年)は静かな湾に漁師3人を乗せた小船が一つ。「残照(江浦)」(1942年)は茜色の空の下、蒸気船が寄港の直前か。「海」には特別な説明がないが、沼津市民ならずとも「あ、淡島だ」と気付くはずだ。

年表によると小林は1939年ごろから沼津市江浦や河口湖に通ったらしい。しかし同じ年表によると、1942年には「戦時下のため写生が規制され、江の浦もその対象になる」とある。彼の江浦スケッチは3年足らずだったようだ。

江浦と言えば頭に浮かぶのが、版画家の山口源だ。晩年を同地で過ごした山口だが、結婚に際して移住したのは1944年。妻・澄江の郷里だったから、結婚前にも訪れていたりはしないだろうか。小林との交流があったなら、と考えを飛躍させてしまう。

最晩年の「渓流」(1946年)


「小林徳三郎」展を歩くと作風の変化がはっきり分かる。フュウザン会で活動していた1910年代はサーカスやダンスホールといった西洋から流入した大衆文化を好んで取り上げているし、院展入選作に由来する「鰯の徳さん」との名で呼ばれていた1920年代は、タイやアジなどの魚を描いた。1920年代後半からは太い輪郭線で子どもたちを描写するようになる。

晩年には日本画にも興味を示した。軸装の「里芋」(1940年代頃)は丸々とした里芋の表面に、墨で凸凹をつけている。同じ東京ステーションギャラリーで2019年に開催された「没後90年記念 岸田劉生展」を思い出した。岸田もまた、晩年は日本画に取り組んでいた。ちょうど今回展の小林の日本画作品の展示位置に、岸田が描いたカボチャの絵があったはずだ。

最新の西洋絵画に学んだフュウザン会の二人が、時を経て同じように日本画の世界に入っていく。これは時代がそうさせたと見るべきか。はたまた二人の資質が似ていたからなのか。

(は)

<DATA>
■東京ステーションギャラリー「小林徳三郎」展
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
開館:午前10時~午後6時 ※金曜日は午後8時まで開館
休館日:月曜日(1月12日は開館)、年末年始(12月29日~1月2日)
観覧料(当日):一般1300円、高校・大学生1100円、中学生以下無料
会期:2026年1月18日(日)まで

終の棲家となった東京都豊島区周辺を描いた「夕景」(右、1948年)

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

おでかけ
エンタメ
沼津市

あなたにおすすめの記事

  • 【東京ステーションギャラリーの「みちのく いとしい仏たち」展】 「落語家にいそうな感じ」

    【東京ステーションギャラリーの「みちのく いとしい仏たち」展】 「落語家にいそうな感じ」

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #エンタメ
    #おでかけ
    #県外
  • 【浜松市美術館の新収蔵品展「風景の旅」】浜松市天竜区ゆかりの洋画家原田京平の風景画。日本画の大家と重なるモチーフ

    【浜松市美術館の新収蔵品展「風景の旅」】浜松市天竜区ゆかりの洋画家原田京平の風景画。日本画の大家と重なるモチーフ

    しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #浜松市
    #浜松市中央区
    #浜松市天竜区
  • 【しずぎんギャラリー四季の「塚原勝二 写真展」】木仏のようなモアイたち

    【しずぎんギャラリー四季の「塚原勝二 写真展」】木仏のようなモアイたち

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #エンタメ
    #おでかけ
    #静岡市
  • 【ベルナール・ビュフェ美術館の「ビュフェの旅-新しい風景の発見」展】 1950年代の二つの潮流の見比べを。どんよりしたパリの建造物、高揚感に満ちたアメリカの摩天楼

    【ベルナール・ビュフェ美術館の「ビュフェの旅-新しい風景の発見」展】 1950年代の二つの潮流の見比べを。どんよりしたパリの建造物、高揚感に満ちたアメリカの摩天楼

    しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #長泉町
  • ​【静岡市美術館の「北欧の神秘」展】 ノルウェー、スウェーデン、フィンランド。空気が透き通っているかのような風景画

    ​【静岡市美術館の「北欧の神秘」展】 ノルウェー、スウェーデン、フィンランド。空気が透き通っているかのような風景画

    しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #静岡市
  • 【ギャラリーえざき の「追悼 柿下木冠近作展2024」】亡くなったことが信じられない

    【ギャラリーえざき の「追悼 柿下木冠近作展2024」】亡くなったことが信じられない

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #エンタメ
    #おでかけ
    #静岡市
  • 【ギャラリー「ときの忘れもの」の「柳澤紀子+北川民次展」】 世界に視線を向ける、静岡県出身の美術家2人

    【ギャラリー「ときの忘れもの」の「柳澤紀子+北川民次展」】 世界に視線を向ける、静岡県出身の美術家2人

    しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #県外
    #浜松市
    #島田市
  • ​【東京オペラシティ アートギャラリーの企画展「アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち」】選択権はあった。だが手放してしまった

    ​【東京オペラシティ アートギャラリーの企画展「アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち」】選択権はあった。だが手放してしまった

    しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #県外
  • 【浜松市美術館の「岸田劉生・北蓮蔵・曾宮一念 ―浜松ゆかりの洋画展―」】岸田劉生が描く浜松、赤土の大地

    【浜松市美術館の「岸田劉生・北蓮蔵・曾宮一念 ―浜松ゆかりの洋画展―」】岸田劉生が描く浜松、赤土の大地

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #エンタメ
    #おでかけ
    #浜松市
  • 【常葉ギャラリーの「トコハの名品」展】佐々木信平さん「北へ」にぞくぞく

    【常葉ギャラリーの「トコハの名品」展】佐々木信平さん「北へ」にぞくぞく

    静岡新聞教育文化部

    #県内アートさんぽ
    #エンタメ
    #おでかけ
    #静岡市