2025年3月29日

【ささめやゆきさんの新刊「グーテンベルグの時代に回帰する」】 「線のマジック」が統一感を生む

一応、目次があって、約40のタイトルがそこにある。ページをめくるとささめやさんの手書きタイトルとテキスト、イラストが配置されている。第2章は文字組みや書体がバラバラ。横組みのゴシックの見開きがあれば、縦組みで階段状に頭落としした明朝のページもある。一つ一つの見開きは、バラエティーに富んでいるが、ごちゃごちゃしているとは感じない。
ささめやさんのイラストはほとんどがドローイングだが、太さは違えど線に同じ味わいがある。「線のマジック」が本の統一感の源になっている。文章が、とか、レイアウトが、とか、イラストが、とか分解した言い方をするとどれも当てはまっていないように思うが、とにかく読んでいて心地よい本だ。
ささめやさんが住む鎌倉まわりの話題が多いが、個人的には「駅舎のバイオリン弾き」と題した鎌倉駅で乗車切符を受け取る駅員の描写が気に入った。
「無言であっても乗客と駅員が手から手へキップをわたすことが大切なのだ。そうして目にはみえないけれど、人間関係が網状につながってゆくことをねがいたい。」
おっしゃっていることがよく分かる。このトーンが全編に貫かれていて、実に頼もしい。巻末の年譜によると今年82歳になるようだが「みずみずしい」という形容が似合う方だ。

静岡市葵区の書店「ひばりBOOKS」では4月6日まで、ささめやさんの個展が開かれている。新刊制作にあたっての、編集者との手紙のやりとりに目を見張る。手書きされた文章と絵が、そのまま本の原稿になっている。便せんを使っていない。自分で切ったのだろう、形も大きさもまちまちの紙に文字を記し、さまざまな形の封筒に入れて東伊豆町に送っている。

ただ、ここでも「バラバラだなあ」という気持ちは湧かない。文字、イラストの線が不思議な統一感を生んでいる。手紙の一つ一つも作品だし、多くの手紙を並べた机そのものも作品に見えた。
(は)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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